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CHAPTER 1.
線形代数
1.4 ベクトルの測り方
2 つのベクトルがどれくらい似ているかを議論するために、内積という尺度を導入する。
1.4.1 内積:ベクトルの「近さ」を返す関数
内積は、2 つのベクトルを引数にとり、その「近さ」を表すスカラー値を返す関数として定義する。
具体的な定義式を知る前に、「近さ」を測る道具として、どのような性質を持っていてほしいかを
整理しておこう。
具体的な定義式は、その性質を満たすように「作る」ことにする。
内積の公理
R 上の線形空間 V を考え、u, v, w ∈ V, c ∈ R とする。
2 つのベクトルを引数にとり、実数を返す関数 (·, ·) : V × V → R として、次の性質
を満たすものを 内積 という。
対称性 (u, v) = (v, u)
双線形性 1. スカラー倍 (cu, v) = (u, cv) = c(u, v)
双線形性 2. 和 (u + w, v) = (u, v) + (w, v), (u, v + w) = (u, v) + (u, w)
正定値性 (u, u) ≥ 0, (u, u) = 0 ⇐⇒ u = 0
対称性
u が v にどれくらい近いか?という視点で測っても、v が u にどれくらい近いか?という視点で
測っても、得られる「近さ」は同じであってほしい、という性質。
双線形性
どちらかのベクトルをスカラー倍してから「近さ」を測りたいとき、元のベクトルとの近さを測っ
ておいて、それを定数倍することでも目的の「近さ」を求められる、という性質。
また、ほかのベクトルを足してから「近さ」を測りたいとき、足し合わせたいベクトルそれぞれに
ついて近さを測っておいて、それを合計することでも目的の「近さ」を求められる、という性質。
これらは、近さを測るという「操作」と「演算」が入れ替え可能であるという、線形性と呼ばれる
性質である。