
1.1.
数列の極限 3
したがって、|a − b| < ε を常に成り立たせるなら、|a − b| = 0、すなわち a = b となる。
* * *
ここまでの考察から直観を取り除いて、この定理の数学的な証明をまとめておこう。
Proof: 有限値 ε の不等式による一致の表現
a , b と仮定する。
ε
0
=
|a − b|
2
とおくと、絶対値 |a − b| が正の数であることから、ε
0
も正の数となる。
よって、|a − b| < ε
0
が成り立つので、
両辺 ×2
|a − b| <
|a − b|
2
2|a − b| < |a − b|
2|a − b| − |a − b| < 0
|a − b| < 0
絶対値が負になることはありえないので、a , b の仮定のもとでは矛盾が生じる。
したがって、a = b でなければならない。 ■
なお、|a − b| < ε の右辺を定数倍し、|a − b| < kε などとしても、この定理は成り立つ。
定理「有限値 ε の不等式による一致の表現」は、定数を k として、次のように書き
換えることもできる。
|a − b| < kε =⇒ a = b
この場合、証明で ε
0
=
|a − b|
2k
とおけば、まったく同様の議論が成り立つからだ。
実際に、|a − b| < 2ε とした場合のこの定理を、後に登場する数列の極限の一意性の証明で使うこ
とになる。
1.1.2 ε − N 論法による数列の収束
ε − δ 論法は、数列の極限に適用する場合、ε − N 論法と呼ばれることが多い。