Chapter 1
微分と積分
1.1 1 変数関数の微分
微分とは、複雑な問題も「拡大して見たら簡単に見える(かもしれない)という発想で、わずか
な変化に着目して入力と出力の関係(関数)を調べる手法といえる。
1.1.1 接線:拡大したら直線に近似できる
関数 y = f (x) について、引数の値を x = x
0
からわずかに増加させて、x = x
0
+ x にした場合の出
力の変化を考える。
x
y
O
x
0
+ xx
0
f ( x
0
)
f ( x
0
+ x)
x
1
2
CHAPTER 1.
微分と積分
このとき、増分の x を狭くしていくx の値を小さくしていくと、x = x
0
付近において、
y = f (x) のグラフは直線にほとんど重なるようになる。
x
y
O
x
0
+ xx
0
f (x
0
)
f (x
0
+ x)
x
y
O
x
0
+ xx
0
f (x
0
)
f (x
0
+ x)
このように、関数 f (x) は、ある点 x
0
の付近では、
f (x) a(x x
0
) + b
という直線に近似することができる。
ここで、 f (x
0
) の値を考えると、
f (x
0
) = a(x
0
x
0
) + b
= a · 0 + b
= b
であるから、実は b = f (x
0
) である。
1.1. 1
変数関数の微分 3
一方、a はこの直線の傾きを表す。
そもそも、傾きとは、x が増加したとき、y がどれだけ急に(速く)増加するかを表す量である。
関数のグラフを見ると、急激に上下する箇所もあれば、なだらかに変化する箇所もある。
つまり、ある点でグラフにぴったりと沿う直線(接線)を見つけたとしても、その傾きは場所に
よって異なる。
そこで、「傾きは位置 x の関数」とみなして、次のように表現しよう。
a = f
(x)
これで、先ほどの直線の式を完成させることができる。
関数の各点での直線による近似
関数 f (x) は、ある点 x
0
の付近では、
f (x) f (x
0
) + f
(x )(x x
0
)
という傾き f
(x) の直線に近似できる。
1.1.2 接線の傾きとしての導関数
傾きは位 x の関数 f
(x) としたが、この関数がどのような関数なのか、結局傾きを計算する方法
がわかっていない。
直線の傾きは x y の増加率の比として定義されているから、まずはそれぞれの増加率を数式で
表現しよう。
4
CHAPTER 1.
微分と積分
x
y
O
x + xx
f (x)
f (x + x)
x
y
この図から、y の増加率 y は次のように表せることがわかる。
y = f (x + x) f (x)
この両辺を x で割ると、x の増加率 x y の増加率 y の比率が表せる。
y
x
=
f (x + x) f (x)
x
図では x には幅があるが、この幅を限りなく 0 に近づけると、幅というより点になる。
つまり、x 0 とすれば、
y
x
は任意の点 x での接線の傾きとなる。
「任意の点 x での傾き」も x の関数であり、この関数を導関数と呼ぶ。
導関数
関数 f (x) の任意の点 x おける接線の傾き(増加の速さ)を表す関数を導関数と
いい、次のように定義する。
f
(x ) = lim
x0
f (x + x) f (x)
x
1.1. 1
変数関数の微分 5
1.1.3 微分とその関係式
微分 関数 f (x) から、その導関数 f
(x) を求める操作を微分という。
関数のグラフから離れて、微分という「計算」を考えるにあたって、先ほどの導関数の定義式よ
りも都合の良い表現式がある。
x 0 とした後の x dx と書くことにして、 lim
x0
を取り払ってしまおう。
両辺 ×dx
f (x) を移項
f
(x) =
f (x + dx) f (x)
dx
f
(x)dx = f (x + dx) f (x)
f
(x)dx + f (x) = f (x + dx)
微分の関係式
f (x + dx ) = f (x) + f
(x )dx
1.1.4 不連続点と微分可能性
x において連続な関数であれば、幅 x を小さくすれば、その間の変化量 y も小さくなるはず
である。
6
CHAPTER 1.
微分と積分
x
y
O
x + xx
f (x)
f (x + x)
x
y
しかし、不連続な点について考える場合は、そうはいかない。
下の図を見ると、x の幅を小さくしても、y は不連続点での関数の値の差の分までしか小さくな
らない。
O
x
y
x + xx
f (x)
f (x + x)
x
y
O
x
y
(x + x) x
f (x)
f (x + x)
x
y
このような不連続点においては、どんなに拡大しても、関数のグラフが直線にぴったりと重なる
ことはない。
「拡大すれば直線に近似できる」というのが微分の考え方だが、不連続点ではこの考え方を適用
できないのだ。
1.1. 1
変数関数の微分 7
関数の不連続点においては、微分という計算を考えることがそもそもできない。
る点での関数のグフが直線に重微分可能である)めには、x 0 たときに y 0
となる必要がある。
1.1.5 導関数のさまざまな記法
微分を考えるときは、x 0 としたときに y 0 となる前提のもとで議論する。
x 0 とした結果を dxy 0 の結果を dy とすると、ある点 x での接線の傾きは、次のよう
にも表現できる。
dy
dx
= lim
x0
y
x
この接線の傾きが x の関数であることを表現したいときは、次のように書くこともある。
d y
dx
(x)
これも一つの導関数(位置に応じた接線の傾きを表す関数)の表記法である。
この記法は、どの変数で微分しているかがわかりやすいという利点がある。
導関数のライプニッツ記法
次のような記号はいずれも、関数 y = f (x) の導関数を表す。
dy
dx
=
dy
dx
(x ) =
d f
dx
=
d
dx
f (x)
特に、
d
dx
f (x) という記法は、
d
dx
の部分を微分操作を表す演算子として捉えて、「関数 f (x) に微
という操作を施した」ことを表現しているように見える。
微分演算子
関数を微分するという操作を表現する演算子を微分演算子という。
例えば、次のような記号で表される。
d
dx
8
CHAPTER 1.
微分と積分
ところで、これまで使ってきた f
(x) という導関数の記法にも、名前がついている。
導関数のニュートン記法
次の記号は、関数 y = f (x) の導関数を表す。
f
(x )
この記法は、 f という関数から導出された関数が f
である」ことを表現している。
導関数はあくまでも関数 f ら派生したものであるから、 f いう文字はそのまま、加工された
ことを表すために
をつけたものと解釈できる。
1.1.6 微分の性質
微分の関係式を使うことで、微分に関する有用な性質を導くことができる。
REVIEW
微分の関係式
f (x + dx) =
元の関数
f (x) +
導関数
f
(x) dx
関数の一次結合の微分
α f (x) + βg(x) において、x dx だけ微小変化させてみる。
α f (x + dx) + βg(x + dx) = α
f (x) + f
(x)dx
+ β
g(x) + g
(x)dx
=
元の関数
α f (x) + βg(x) + {
導関数
α f
(x) + βg
(x) }dx
微分の線形性
(
α f (x) + βg(x)
)
= α f
(x ) + βg
(x )
1.1. 1
変数関数の微分 9
関数の積の微分
f (x)g(x) において、x dx だけ微小変化させてみる。
f (x + dx)g(x + dx) =
f (x) + f
(x)dx
g(x) + g
(x)dx
= f (x)g(x) + f
(x)g(x)dx + f (x)g
(x)dx + f
(x)g
(x)dx
2
= f (x)g(x) + { f
(x)g(x) + f (x)g
(x)}dx +
2 次以上の微小量
f
(x)g
(x)dx
2
ここで、dx
2
は、dx より速く 0 に近づくので無視できる。
荒く言ってしまえば、dx でさえ微小量なのだから、dx
2
なんて存在しないも同然だと考えてよい。
このことは、次の図を見るとイメージできる。
f (x)g(x)
f
(x)g(x)dx
f (x)g
(x)dx
f
(x)g
(x)dx
2
f (x) f (x + dx)
g(x)
g(x + dx)
f (x)
g(x)
f
(x)dx
g
(x)dx
dx 0 とき dy 0 となる場合に微分という計算を定義するのだから、dx を小さくしていくと、
d y にあたる f (x + dx) f (x)(これは f
(x)dx と等しい)も小さくなっていく。
同様にして、g(x + dx) g(x)(これは g
(x)dx と等しい)も小さくなっていく。
REVIEW
微分の関係式 f (x + dx) = f (x) + f
(x)dx より、
f
(x)dx = f (x + dx) f (x)
10
CHAPTER 1.
微分と積分
dx を小さくした場合を図示すると、
f (x)g(x)
2 次以上の微小量
f
(x)g
(x)dx
2
に相当する左上の領域は、ほとんど点になってしまうことがわかる。
このように、dx
2
の項は無視してもよいものとして、先ほどの計算式は次のようになる。
f (x + dx)g(x + dx) =
元の関数
f (x)g(x) + {
導関数
f
(x)g(x) + f (x)g
(x) }dx
微分のライプニッツ則
(
f (x)g(x)
)
= f
(x )g(x) + f (x)g
(x )
1.1.7 冪関数の微分
具体的な関数の導関数も、微分の関係式をもとに考えることができる。
まずは、基本的な例として、冪関数 y = x
n
の微分を考えてみよう。
y = x
2
の微分
y = f (x) = x
2
において、x dx だけ微小変化させると、y dy だけ変化するとする。
すると、微分の関係式は y + dy = f (x + dx) = (x + dx)
2
となるが、これを次のように展開して考
える。
y + dy = (x + dx)(x + dx)
右辺の (x + dx)(x + dx) からは、
1.1. 1
変数関数の微分 11
x
2
の項が 1
xdx の項が 2
dx
2
の項が 1
現れることになる。
数式で表すと、
y + dy = x
2
+ 2xdx + dx
2
同じ
ここで y = x
2
なので、左辺の y と右辺の x
2
は相殺される。
dy = 2xdx +
高次の微小量
dx
2
さらに、dx
2
の項は無視することができる。
なぜなら、dx を小さくするとdx
2
dx とは比べ物にならないくらい小さくなってしまうからだ。
x
2
xdx
xdx
dx
2
x
x
dx
dx
x
2
dx 0
というわけで、次のような式が得られる。
dy = 2xdx
よって、y = x
2
の導関数は、y
= 2x となることがわかった。
dy
dx
= 2x
12
CHAPTER 1.
微分と積分
y = x
3
の微分
同じように、y = x
3
の微分を考えてみよう。
y + dy = (x + dx)(x + dx)(x + dx)
右辺の (x + dx)(x + dx)(x + dx) からは、
x
3
の項が 1
x
2
dx の項が 3
dx
3
の項が 1
現れることになる。
y + dy = x
3
+ 3x
2
dx + dx
3
同じ
ここで y = x
3
なので、左辺の y と右辺の x
3
は相殺される。
dy = 3x
2
dx +
高次の微小量
dx
3
さらにここでは、dx
3
の項を無視することができる。
次の図を見てみよう。
各辺 dx の立方体は、dx を小さくすると、ほぼ点にしか見えないほど小さくなる。
つまり、各辺 dx の立方体の体積 dx
3
は、考慮する必要がない。
dx
x
dx 0
というわけで、y = x
3
の導関数は、y
= 3x
2
となることがわかった。
1.1. 1
変数関数の微分 13
d y
dx
= 3x
2
y = x
n
の微分(n が自然数の場合)
n が自然数だとすると、y = x
n
の微分は、y = x
2
y = x
3
の場合と同じように考えられる。
y + dy = (x + dx)(x + dx) · · · (x + dx)
| {z }
n
右辺の (x + dx)(x + dx) · · · (x + dx) を展開しようすると、次のような 3 種類のかけ算が発生する。
x どうしのかけ算
x dx のかけ算
dx どうしのかけ算
つまり、右辺からは、
x
n
の項が 1
x
n1
dx の項が n
dx
n
の項が 1
という項が現れることになる。
そして、x
n
は左辺の y と相殺され、dx
n
の項は高次の微小量として無視できる。
すると、残るのは次のような式になるだろう。
dy = nx
n1
dx
この式は、y = αx という直線の式によく似ている。
高次の dx の項 dx
n
を無視し1 次の dx の項だけ残したのは微分という計算が微小範囲における
直線での近似であるからだ。
あくまでも微小範囲での直線の式であることを表すために、x, y dx, dy として、dy = αdx
う形の式になっていると考えればよい。
14
CHAPTER 1.
微分と積分
自然数の冪を持つ冪関数の導関数
n が自然数のとき、y = x
n
の導関数は次のようになる。
dy
dx
= nx
n1
y = x
n
の微分(n が整数の場合)
指数法則を使うことで、n が負の整数の場合にも拡張することができる。
まずは、y = x
1
の微分を考えてみよう。
指数法則より、
y
=
x
1
は次のように変形できる。
両辺 ×x
y =
1
x
xy = 1
微小変化を加えた微分の関係式を作って、次のように展開していく。
(x + dx)(y + d y) = 1
xy + xdy + ydx +
高次の微小量
d ydx = 1
同じ
ここで、微小量の掛け合わせである d ydx は無視できるほど小さい。
また、y =
1
x
より、xy = 1 なので、左辺の xy と右辺の 1 は相殺される。
すると、残った式は、
ydx を移項
両辺 · dx
両辺 · x
xdy + ydx = 0
xdy = ydx
x
d y
dx
= y
d y
dx
=
y
x
1.1. 1
変数関数の微分 15
y が残ってしまっているので、y =
1
x
を代入すると、
dy
dx
=
1
x
2
= x
2
これは、冪が自然数の場合の冪関数の微分
dy
dx
= nx
n1
において、n = 1 を代入したものになっ
いる。
n が任意の負の整数の場合も、同様に考えられる。
y = x
n
を、x
n
y = 1 として、
高次の微小量を無視
相殺&無視
(x + dx)(x + dx) · · · (x + dx)
| {z }
n
×(y + dy) = 1
(x
n
+ nx
n1
dx +
高次の微小量
dx
n
) × (y + dy) = 1
(x
n
+ nx
n1
dx) × (y + dy) = 1
x
n
y + x
n
d y + nx
n1
ydx +
高次の微小量
nx
n1
dxdy
= 1
x
n
d y + nx
n1
ydx = 0
同じ
移項してさらに整理すると、
両辺 · dx
両辺 ×x
n
y = x
n
指数法則 x
m
x
n
= x
m+n
x
n
d y = nx
n1
ydx
x
n
dy
dx
= nx
n1
y
dy
dx
= nx
n1
x
n
y
= nx
n1
x
n
x
n
= nx
n1
これもやはり、冪が自然数の場合の冪関数の微分
d y
dx
= nx
n1
においてn n に置き換えたもの
になっている。
16
CHAPTER 1.
微分と積分
つまり、自然数(正の整数)だけでなく、負の整数も許容して、次のことがいえる。
整数の冪を持つ冪関数の導関数
n が整数のとき、y = x
n
の導関数は次のようになる。
dy
dx
= nx
n1
y = x
n
の微分(n が実数の場合)
n が有理数の場合はどうだろうか。実はこれも、指数法則によって拡張することができる。
m n はどちらも自然数として、y = x
m
n
の微分を考える。
まず、y = x
m
n
は、y
n
= x
m
とまったく同じ式である。
両辺
1
n
y
n
=
x
m
y = x
m
n
というわけで、y
n
= x
m
を微小変化させて、展開してみよう。
(y + dy)(y + dy) · · · (y + dy)
| {z }
n
= (x + dx)(x + dx) · · · (x + dx)
| {z }
m
ここで、n m は自然数なのだから、自然数冪のときと同じように考えて、次のような式が残る
ことになる。
ny
n1
d y = mx
m1
dx
よって、
dy
dx
の式の y を含まない形を目指すと、
1.1. 1
変数関数の微分 17
y = x
m
n
指数法則 x
a+b
= x
a
x
b
x
m
で約分
指数法則
a
m
a
n
= a
mn
dy
dx
=
mx
m1
ny
n1
=
mx
m1
nx
m
n
(n1)
=
mx
m1
nx
m
m
n
=
mx
m
x
1
nx
m
x
m
n
=
mx
1
nx
m
n
=
m
n
·
x
1
x
m
n
=
m
n
· x
1
(
m
n
)
=
m
n
· x
1+
m
n
=
m
n
x
m
n
1
これは、冪が自然数の場合の冪関数の微分
dy
dx
= nx
n1
において、n
m
n
に置き換えたものになっ
ている。
つまり、整数だけでなく、有理数に対しても同様の導関数の式が成り立つ。
ここまで来ると、無理数はどうだろうか?という疑問が生まれるが、無理数への拡張は指数法則
では対応できない。
無理数に対しては、極限操作によって同様の導関数の式を導くことができ、実数全体に対して同
じ導関数の式が成り立つことが示される。
冪関数の導関数
n が実数のとき、y = x
n
の導関数は次のようになる。
dy
dx
= nx
n1
1.1.8 定数関数の微分
常に一定の値 c を返す定数関数 f (x ) = c の微分はどうなるだろうか。
関数のグラフを描いて考えてみよう。
18
CHAPTER 1.
微分と積分
x
y
O
y = c
c
定数関数のグラフは、x 軸に対して平行な直線であり、この直線の傾きは見るからに 0 である。
実際、導関数の定義に従って計算することで、定数関数の導関数は 0 になることを確かめられる。
REVIEW
導関数の定義
f
(x) = lim
x0
f (x + x) f (x)
x
どの点 x においても f (x) c を返すということは、 f (x + x) c であるため、
f
(x) = lim
x0
c c
x
= lim
x0
0
x
= 0
となり、定数関数 f (x) = c の微分の結果は c に依存せず、常に 0 になる。
定数関数の微分
常に定数 c の値をとる定数関数 f (x ) = c は、微分すると 0 になる。
d
dx
c = 0
1.1.9 合成関数の微分
合成関数の微分の一般的な式は、いろいろな関数の微分を考える上で重要な公式である。
1.1. 1
変数関数の微分 19
関数の微小変化量
関数 f (x) において、変数 x dx だけ微小変化させた式は、これまで何度も登場した。
f (x + dx) = f (x) +
増えた分
f
(x)dx
この式は、x dx だけ微小変化させることで、関数 f の値は f
(x)dx だけ増加した」と捉えるこ
ともできる。
言い換えれば、関数 f の微小変化量は f
(x)dx だということだ。
変化量という観点で眺めるには、次のように移項した式がわかりやすいかもしれない。
区間 dx での変化
f (x + dx) f (x)
=
変化量
f
(x)dx
関数 f の微小変化量 f
(x)dx を、d f と表すことにしよう。
合成関数の微分の関係式
今回はさらに、t = f (x) を関数 g(t) に放り込むことを考える。
g(t) についても、次のような微分の関係式が成り立つはずだ。
g(t + dt) = g(t) + g
(t)dt
合成関数 g( f (x)) を作るため、t = f (引数 (x ) を省略して書いた関数 f (x ) )を代入する。
g( f + d f ) = g( f ) + g
( f )d f
f f (x) に、d f f
(x)dx に書き戻すと、
g( f (x) + f
(x)dx) = g( f (x)) + g
( f (x)) f
(x)dx
となり、左辺の g() の中身 f (x ) + f
(x)dx f (x + dx) と書き換えられるので、次の式を得る。
g( f (x + dx)) =
元の関数
g( f (x)) +
導関数
g
( f (x)) f
(x) dx
20
CHAPTER 1.
微分と積分
合成関数の微分(ニュートン記法による表現)
合成関数 g( f (x)) の微分は、次の式で表される。
(
g( f (x))
)
= f
(x )g
( f (x))
連鎖律としての表現
ニュートン記法による表現はなかなかに覚えづらい式に見えるが、ライプニッツ記法を使って書
き直すと、実は単純な関係式になっている。
(
g( f (x))
)
は、g( f (x)) x で微分したもの:
d
dx
g( f (x))
f
(x) は、 f (x) x で微分したもの:
d
dx
f (x)
g
( f (x)) は、g(t) t で微分したもの
d
d t
g(t) に、t = f (x) に代入したもの:
d
d f
g( f (x))
として書き直すと、
d
dx
g( f (x)) =
d
dx
f (x) ·
d
d f
g( f (x))
さらに、引数を省略して書くと、
dg
dx
=
d f
dx
·
d g
d f
これは、d f を約分できると考えたら、当たり前の式になっている。
dg
dx
=
d f
dx
·
d g
d f
合成関数の微分(連鎖律:ライプニッツ記法による表現)
y = f (x)z = g(y) という関係があるとき、次の式が成り立つ。
dz
dx
=
dz
dy
·
dy
dx
1.1. 1
変数関数の微分 21
これは、x が微小変化すると y も微小変化し、さらに連鎖して z も微小変化すると
いう関係から、 連鎖律 と呼ばれる。
1.1.10 逆関数の微分
関数 y = f (x) の逆関数 x = f
1
(y) の微分も、ライプニッツ記法で考えると、ごく当たり前の式と
して導出できる。
ネタバレすると、次の式がそのまま逆関数の微分を表すものになっている。
dx
d y
=
1
d y
dx
dy
dx
f
(x) と表記するなら、
dx
dy
=
1
f
(x)
である。この発想を納得するために、もう少し詳しく見ていこう。
* * *
y = f (x) の導関数 f
(x) は、ライプニッツ記法では
d y
dx
と表記される。
d y
dx
= f
(x)
ライプニッツ記法
d y
dx
には、y で表される関数を x で微分する」という意味がこめられている。
ならば、逆関数 x = f
1
(y) の導関数は、x で表される関数を y で微分する」という意味で、
dx
d y
表記できる。
dx
d y
= ( f
1
)
(y)
ここで、
dy
dx
= f
(x) という式から、次の等式も成り立つと考えられる。
dx
dy
=
1
f
(x)
22
CHAPTER 1.
微分と積分
これは逆関数の導関数になっているが、逆関数が y の関数なのだから、その導関数
dx
dy
y の関数
であってほしい。
そこで、x を消すために x = f
1
(y) を代入することで、逆関数の導関数を完成させる。
dx
d y
=
1
f
(x)
x= f
1
(y)
逆関数の微分
逆関数の導関数は、元の関数の導関数の逆数になる。
dx
dy
=
1
f
(x)
x= f
1
(y)
ここで、
x= f
1
(y)
は、その直前の式を計算した後に、x = f
1
(y) を代入することを意
味する。
1.1.11 三角関数の微分
角度 θ dθ だけ微小変化させたときの、三角形の高さの変化が sin θ の微小変化であり、底辺の
長さの変化が cos θ の微小変化である。
θ
θ
dθ
dθ cos θ
dθ sin θ
1
1
1.1. 1
変数関数の微分 23
θ
dθ
dθ cos θ
sin θ
θ
dθ
dθ sin θ
cos θ
sin の微分
三角形の高さは、dθ cos θ だけ増えているので、
sin
(
θ + dθ
)
=
元の関数
sin θ +
導関数
cos θ dθ
sin 関数の微分
d
dθ
sin θ = cos θ
cos の微分
三角形の底辺の長さは、dθ sin θ だけ減っているので、
cos
(
θ + dθ
)
= cos θ sin θdθ
cos
(
θ + dθ
)
=
元の関数
cos θ + (
導関数
sin θ )dθ
cos 関数の微分
d
dθ
cos θ = sin θ
24
CHAPTER 1.
微分と積分
1.1.12 ネイピア数
指数関数を定義した際に、「どんな数も 0 乗したら 1 になる」と定義した。
つまり、指数関数 y = a
x
において、x = 0 での関数の値は 1 である。
ここでさらにx = 0 でのグラフの傾きも 1 となるような a を探し、その値をネイピア数と呼ぶこ
とにする。
ネイピア数(自然対数の底)
指数関数
y
=
a
x
において、
x
=
0
での接線の傾きが
1
となるような
a
の値をネイ
ピア数と呼び、e と表す。
この定義ではx = 0 では関数の値も傾きも等しく 1 になる」という、x = 0 での振る舞いにし
言及していない。
だが、実はネイピア数を底とする指数関数は、「微分しても変わらない(すべての x において、関
数の値と傾きが一致する)」という性質を持つ。
1.1.13 ネイピア数を底とする指数関数の微分
指数関数 y = e
x
の微分は、導関数の定義から次のように計算できる。
d
dx
e
x
= lim
x0
e
x+∆x
e
x
x
= lim
x0
e
x
· e
x
e
x
x
= lim
x0
e
x
· (e
x
1)
x
= e
x
· lim
x0
e
x
1
x
ここで、 lim
x0
e
x
1
x
x によらない定数であり、
lim
x0
e
x
1
x
= lim
x0
e
0+∆x
e
0
x
というように、これは x = 0 における傾き(導関数に x = 0 を代入したもの)を表している。
そもそも、ネイピア数 e の定義は「x = 0 での e
x
の傾きが 1」というものだったので、
1.1. 1
変数関数の微分 25
lim
x0
e
x
1
x
= 1
となり、e
x
は微分しても変わらない」という性質が導かれる。
d
dx
e
x
= e
x
ネイピア数を底とする指数関数の微分
ネイピア数を底とする指数関数は、微分しても変わらない関数である。
d
dx
e
x
= e
x
指数が定数倍されている場合
y = e
kx
のように、指数が定数倍(k 倍)されている場合は、合成関数の微分の公式を使って計算
できる。
t = kx とおくと、
d y
dx
=
d t
dx
·
dy
d t
=
d
dx
(kx) ·
d
d t
(e
t
)
= k
dx
dx
· e
t
= ke
t
= ke
kx
となり、e
kx
自体は変わらず、指数の係数 k e の肩から「降りてくる」形になる。
ネイピア数を底とする指数関数の微分(指数が定数倍されている場合)
26
CHAPTER 1.
微分と積分
k を定数とし、指数が k 倍されている場合は、微分すると全体が k 倍される。
d
dx
e
kx
= ke
kx
指数が関数の場合
指数が関数になっている場合 y = e
f (x)
の微分も、合成関数の微分を使って考えればよい。
t = f (x) とおくと、
dy
dx
=
dy
dt
·
dt
dx
=
d
dt
e
t
·
d
dx
f (x)
= e
t
· f
(x)
= e
f (x)
· f
(x)
ネイピア数を底とする指数関数の微分(指数が関数の場合)
d
dx
e
f (x)
= f
(x)e
f (x)
1.1.14 一般の指数関数の微分
指数関数の底の変換公式より、a を底とする指数関数の微分は、ネイピア e を底とする指数関数
の微分(指数が定数倍されている場合)に帰着できる。
REVIEW
指数関数の底の変換公式
a
x
= b
(log
b
a)x
指数関数の底の変換公式において、b = e の場合を考えると、
a
x
= e
(log a)x
1.1. 1
変数関数の微分 27
となるので、指数が log a 倍された、e を底とする指数関数の微分として考えればよい。
d
dx
e
kx
= ke
kx
e
(log a)x
= a
x
d
dx
a
x
=
d
dx
e
(log a)x
= (log a)e
(log
a
)
x
= (log a)a
x
指数関数の微分
d
dx
a
x
= a
x
(log a)
1.1.15 対数関数の微分
自然対数の微分(底がネイピア数の対数の微分)
底がネイピア数である対数は、自然対数と呼ばれる。
自然対数
底がネイピア数 e である対数関数を 自然対数 といい、次のように底 e を省略して
表記する。
log x
y = log x x = e
y
の逆関数であるから、e
y
の微分 e
y
の逆数を考えればよい。
d
dx
log x =
1
e
y
=
1
x
自然対数の微分
d
dx
log x =
1
x
28
CHAPTER 1.
微分と積分
1.1.16 対数微分法
真数が関数である自然対数の微分
y = log f (x) の微分は、対数微分法と呼ばれる微分テクニックの原理となる。
この微分は、t = f (x) として合成関数の微分を考えることで計算できる。
d
dx
log f (x) =
dy
dt
·
dt
dx
=
d
d t
log t ·
d
dx
f (x)
=
1
t
· f
(x)
=
1
f (x)
· f
(x)
=
f
(x)
f (x)
真数が関数である自然対数の微分
d
dx
log f (x ) =
f
(x)
f (x)
ここで、この式を f
(x) = . . . の形に直してみよう。
f
(x) = f (x) ·
d
dx
log f (x)
関数 f (x) の微分 f
(x) は、log を取ってから微分したもの
d
dx
log f (x) に、元の関数 f (x) をかける
ことでも計算できることがわかる。
対数微分法の原理
log を取ってから微分したものに元の関数をかける操作は、微分することと同じに
1.1. 1
変数関数の微分 29
なる。
f
(x) = f (x) ·
log f (x )
この原理によって、 f (x) の微分計算を、log f (x) の微分計算に置き換えることが可能になる。
対数を取ることで、対数の性質が使えるようになるため、微分が簡単になることがある。そんな
ときにこの原理が役に立つ。
対数微分法でライプニッツ則(関数の積の微分)を導く
f (x)g(x) の微分を、対数経由で計算してみよう。
まず、log
(
f (x)g(x)
)
の微分は、「積の対数が対数の和になる」という対数の性質を用いて、次のよ
うに計算できる。
d
dx
log
(
f (x)g(x)
)
=
d
dx
log f (x) + log g(x)
=
d
dx
log f (x) +
d
dx
log g(x)
=
f
(x)
f (x)
+
g
(x)
g(x)
=
f
(x)g(x) + f (x)g
(x)
f (x)g(x)
対数微分法の原理より、この式に f (x)g(x) をかけたものが、 f (x)g(x) の微分になる。
( f (x)g(x))
= f (x)g(x) ·
d
dx
log
(
f (x)g(x)
)
=
f (x)g(x) ·
f
(x)g(x) + f (x)g
(x)
f (x)g(x)
= f
(x)g(x) + f (x)g
(x)
これは、関数の積の微分公式である、ライプニッツ則の式に一致している。
対数微分法で分数関数の微分(関数の商の微分)を考える
続いて、
f (x)
g(x)
の微分も対数微分法で計算してみよう。
30
CHAPTER 1.
微分と積分
log
f (x)
g(x)
の微分は、「商の対数が対数の差になる」という対数の性質を用いて、次のように計算で
きる。
d
dx
log
f (x)
g(x)
=
d
dx
log f (x) log g(x)
=
d
dx
log f (x)
d
dx
log g(x)
=
f
(x)
f (x)
g
(x)
g(x)
=
f
(x)g(x) f (x)g
(x)
f (x)g(x)
対数微分法の原理より、この式に
f (x)
g(x)
をかけたものが、
f (x)
g(x)
の微分になる。
f (x)
g(x)
!
=
f (x)
g(x)
·
d
dx
log
f (x)
g(x)
=
f (x)
g(x)
·
f
(x)g(x) f (x)g
(x)
f (x)g(x)
=
f
(x)g(x) f (x)g
(x)
(g(x))
2
分数関数の微分
f (x)
g(x)
!
=
f
(x)g(x) f (x )g
(x)
(g(x))
2
関数の積・商の微分の比較
対数を取ってから微分するとライプニッツ則と分数関数の微分の違いがシンプルに表現される。
d
dx
log
(
f (x)g(x)
)
=
f
(x)
f (x)
+
g
(x)
g(x)
d
dx
log
f (x)
g(x)
=
f
(x)
f (x)
g
(x)
g(x)
あとは、これらに f (x)g(x)
f (x)
g(x)
をかけることで、元の関数の微分の式が導ける。
1.2.
高階微分 31
1.2 高階微分
1.2.1 高階微分とその表記
関数 f (x) を微分したもの f
(x) をさらに微分して、その結果をさらに微分して…というように、「導
関数の導関数」を繰り返し考えていくことを高階微分という。
まずは、2 回微分した場合について定義しよう。
f (x) 2 回微分したものは、ニュートン記法では f
′′
(x) と表される。
ライプニッツ記法で表現するには、次のように考えるとよい。
d
dx
d
dx
f (x)
!
=
d
dx
!
2
f (x) =
d
2
dx
2
f (x)
二階微分(二階導関数)
関数 f (x ) を微分して得られた導関数 f
(x) をさらに微分することを 二階微分 とい
い、その結果得られた導関数を 二階導関数 という。
二階導関数は、次のように表記される。
f
′′
(x) =
d
2
dx
2
f (x)
n 階微分も同様に定義される。
n が大きな値になると、プライム記号をつける表記では f
′′′′′′′′
(x) のようになってわかりづらいの
で、 f
(n)
(x) のようにプライムの数 n を添える記法がよく使われる。
n 階微分(n 階導関数)
関数
f
(
x
)
n
回微分することを
n
階微分
といい、その結果得られた導関数を n
導関数 という。
32
CHAPTER 1.
微分と積分
n 階導関数は、次のように表記される。
f
(n)
(x) =
d
n
dx
n
f (x)
1.2.2 冪関数の高階微分
n 次の冪関数 f (x) = x
n
k 回微分すると、次のようになる。
f (x) = x
n
f
(
x
)
=
nx
n1
f
′′
(x) = n(n 1)x
n2
f
′′′
(x) = n(n 1)(n 2)x
n3
.
.
.
f
(k)
(x) = n(n 1)(n 2) · · · (n (k 1))x
nk
= n(n 1)(n 2) · · · (n k + 1)x
nk
ここで、k = n とすると、
f
(n)
(x) = n(n 1)(n 2) · · · (n n + 1)x
nn
= n(n 1)(n 2) · · · 1 · x
0
= n(n 1)(n 2) · · · 1
= n!
となり、n 階微分した時点で定数 n! になるので、これ以上微分すると 0 になる。
f
(n+1)
(x) = 0
1.2.
高階微分 33
n 次冪関数の高階微分
n 次冪関数 f (x) = x
n
n 階微分は n! となり、n + 1 回以上微分すると 0 になる。
f (x) = x
n
=
f
(n)
(x) = n!
f
(n+1)
(x) = 0
1.2.3 指数関数の高階微分
ネイピア数を底とする指数関数 f (x) = e
x
は、何度微分しても変わらない関数である。
f (x) = e
x
f
(x) = e
x
f
′′
(x) = e
x
f
′′′
(x) = e
x
.
.
.
f
(n)
(x) = e
x
ネイピア数を底とする指数関数の高階微分
e を底とする指数関数 f (x) = e
x
n 階微分は変わらず e
x
となる。
f (x) = e
x
= f
(n)
(x) = e
x
指数が k 倍されている場合 f (x) = e
kx
は、微分するたびに k が前に落ちてきて、n 階微分する k
n
が前につくことになる。
34
CHAPTER 1.
微分と積分
f (x) = e
kx
f
(x) = ke
kx
f
′′
(x) = k
2
e
kx
f
′′′
(x) = k
3
e
kx
.
.
.
f
(n)
(x) = k
n
e
kx
ネイピア数を底とする指数関数の高階微分(指数が定数倍されている場合)
e を底とし、指数が定 k 倍された指数関数 f (x) = e
kx
n 階微分は k
n
e
kx
となる。
f (x) = e
kx
= f
(n)
(x) = k
n
e
kx
1.3 存在定理とテイラー展開
1.3.1 高階微分による近似式
微分の導入として話した、関数の各点での直線による近似に立ち返ろう。
REVIEW
関数 f (x) は、ある点 x
0
の付近では、
f (x) f (x
0
) + f
(x)(x x
0
)
という傾き f
(x) の直線に近似できる。
この式に x = x
0
を代入すると、
f (x
0
) f (x
0
) + f
(x
0
)(x
0
x
0
)
f (x
0
) f (x
0
) + f
(x
0
) · 0
f (x
0
) = f (x
0
)
1.3.
存在定理とテイラー展開 35
となり、たしかに点 x
0
では一致することがわかる。
ここで、両辺を高階微分しても、点 x
0
で一致するような近似式を作りたい。
一階微分が一致するなら点 x
0
でのグラフの傾きが等しく、二階微分が一致するなら点 x
0
でのグ
ラフの曲がり具合が等しい、…といった具合に、高階微分を一致させていけば、どんどん本物の
関数 f (x) に近い近似式が得られるからだ。
n 階微分してから x = x
0
を代入しても、 f
(n)
(x
0
) = f
(n)
(x
0
) が成り立つようにするには、近似式の
右辺 f (x
0
) + f
(x)(x x
0
) をどのように変更すればよいだろうか?
f
(x)(x x
0
) n 階微分
右辺を微分した時点で定数項 f (x
0
) は消えてしまうので、 f
(x)(x x
0
) の微分結果だけが残ること
になる。
f
(n)
(x) =
d
n
dx
n
f
(x)(x x
0
)
そこで、 f
(x)(x x
0
) の高階微分がどうなるかを探っていく。1 階微分から順に見ていこう。
この計算では、関数の積の微分(ライプニッツ則)を思い出す必要がある。
REVIEW
関数の積の微分(ライプニッツ則)
d
dx
(
f (x)g(x)
)
=
d
dx
f (x) · g(x) + f (x) ·
d
dx
g(x)
積の各項の微分を計算しておくと、
d
dx
f
(x) = f
′′
(x)
d
dx
(x x
0
) =
d
dx
x
d
dx
x
0
= 1 0 = 1
となるので、ライプニッツ則より、1 階微分は次のようになる。
d
dx
f
(x)(x x
0
)
=
f
(x) の微分
f
′′
(x) (x x
0
) + f
(x) ·
(x x
0
) の微分
1
= f
′′
(x)(x x
0
) + f
(x)
36
CHAPTER 1.
微分と積分
この結果をもう一度微分すると、2 階微分が求まる。
d
2
dx
2
f
(x)(x x
0
)
=
d
dx
f
′′
(x)(x x
0
) + f
(x)
=
d
dx
f
′′
(x)(x x
0
)
+
d
dx
f
(x)
=
f
′′
(x) の微分
f
′′′
(x)
(x x
0
) + f
′′
(x) ·
(x x
0
) の微分
1 + f
′′
(x)
= f
′′′
(x)(x x
0
) + 2 f
′′
(x)
さらにもう一度微分することで、3 階微分が求められる。
d
3
dx
3
f
(x)(x x
0
)
=
d
dx
f
′′′
(x)(x x
0
) + 2 f
′′
(x)
=
d
dx
f
′′′
(x)(x x
0
)
+ 2
d
dx
f
′′
(x)
=
f
′′′
(x) の微分
f
′′′′
(x)
(x x
0
) + f
′′′
(x) ·
(x x
0
) の微分
1 + 2 f
′′′
(x)
= f
′′′′
(x)(x x
0
) + 3 f
′′′
(x)
プライム記号の数が増えてきたので、 f
′′′
= f
(3)
のように書き直して結果をまとめると、
d
dx
f
(x)(x x
0
)
= f
(2)
(x)(x x
0
) + f
(1)
(x)
d
2
dx
2
f
(x)(x x
0
)
= f
(3)
(x)(x x
0
) + 2 f
(2)
(x)
d
3
dx
3
f
(x)(x x
0
)
= f
(4)
(x)(x x
0
) + 3 f
(3)
(x)
.
.
.
d
n
dx
n
f
(x)(x x
0
)
= f
(n+1)
(x)(x x
0
) + n f
(n)
(x)
のように続き、n 階微分の結果が得られる。
1.3.
存在定理とテイラー展開 37
x = x
0
を代入すると…
これで、 f (x) n 階微分 f
(n)
(x) は、次のように表せることがわかった。
f
(n)
(x) = f
(n)
(x)(x x
0
) + n f
(n1)
(x)
ここに、x = x
0
を代入してみると、
f
(n)
(x
0
) = f
(n)
(x
0
)(
0
x
0
x
0
) + n
定数の微分は 0
f
(n1)
(x
0
)
= f
(n)
(x
0
) · 0 + n · 0
= 0
というように、右辺の項がすべて消えて、0 になってしまう。
f
(n)
(x
0
) = f
(n)
(x
0
) を成り立たせるには、右辺に項が足りないということになる。
n 階微分し x = x
0
を代入しても 0 にならず、f
(n)
(x
0
) として生き残るような項を、元の近似式の
右辺に追加する必要がある。
近似式の続きを予想する
具体的にどんな項を加えていけばよいかは、式の規則性から予想していくことにする。
f (x) f (x
0
) + f
(x
0
)(x x
0
)
という式を、次のように読み替えてみよう。
f (x)
0 次の項
f
(0)
(x
0
)(x x
0
)
0
+
1 次の項
f
(1)
(x
0
)(x x
0
)
1
f (x
0
) 0 階微分(微分を 1 回もしていない、そのままの関数)と考えて、 f
(0)
(x
0
) と書いた。
また0 乗は必 1 になるのでf (x
0
) の後ろには (x x
0
)
0
= 1 が隠れていると考えることができる
このように書き換えた式をみると、なんとなく次のような続きを予想できる。
f (x)
?
=
0 次の項
f
(0)
(x
0
)(x x
0
)
0
+
1 次の項
f
(1)
(x
0
)(x x
0
)
1
+
2 次の項
f
(2)
(x
0
)(x x
0
)
2
+
3 次の項
f
(3)
(x
0
)(x x
0
)
3
+ · · ·
38
CHAPTER 1.
微分と積分
この式が正しいかどうかはわからないが、この式をベースに調整を加えていくアプローチを試し
てみよう。
2 次の項を加えた近似式
まず 2 次の項だけ加えた状態で、 f (x) 2 階微分を考えてみる。
f
(
x
)
?
=
f
(
x
0
)
+
f
(
x
0
)(
x
x
0
)
+
f
′′
(
x
0
)(
x
x
0
)
2
このとき元の近似式は 2 階微分すると 0 になってしまうので元の近似式にあっ 0 次の項と 1
次の項は 2 階微分によって消えてしまうことになる。
よって、 f (x) 2 階微分は、2 次の項だけの微分として考えればよい。
d
dx
X
n
= nX
n1
f
′′
(x)
?
=
d
2
dx
2
f
′′
(x
0
) (x x
0
)
2
= f
′′
(x
0
) ·
d
2
dx
2
(x x
0
)
2
= f
′′
(x
0
) ·
d
dx
(
d
dx
(x x
0
)
2
)
= f
′′
(x
0
) ·
d
dx
(
2(x x
0
)
)
= f
′′
(x
0
) · 2
d
dx
(x x
0
)
= f
′′
(x
0
) · 2 · 1
= 2 f
′′
(x
0
)
定数なので外に出せる
x = x
0
を代入すると、
f
′′
(x
0
) = 2 f
′′
(x
0
)
という、微妙に惜しい結果が得られる。
この結果から、2 次の項に
1
2
をかけておけば、 f
′′
(x
0
) = f
′′
(x
0
) が成り立たせることができるとわ
かる。
1.3.
存在定理とテイラー展開 39
つまり、近似式は次のように修正すればよい。
f (x) f (x
0
) + f
(x
0
)(x x
0
) +
2 次の項
1
2
f
(2)
(x
0
)(x x
0
)
2
+ · · ·
3 次の項を加えた近似式
3 階微分した場合、先ほど追加した 2 次の項も消えてしまうので、さらに 3 次の項を加える必要
がある。
f
′′′
(x)
?
=
d
3
dx
3
f
′′′
(x
0
)(x x
0
)
3
= f
′′′
(x
0
) ·
d
dx
d
dx
d
dx
(x x
0
)
3
!!
= f
′′′
(x
0
) ·
d
dx
d
dx
3(x x
0
)
2
!
= f
′′′
(x
0
) ·
d
dx
(
3 · 2(x x
0
)
)
= f
′′′
(x
0
) · 3 · 2 · 1
先ほどと同じように考えて、3 次の項に
1
3 · 2 · 1
=
1
3!
をかけておけば f
′′′
(x
0
) = f
′′′
(x
0
) が成り立
たせることができる。
これで、近似式は次のようになる。
f (x) f (x
0
) + f
(x
0
)(x x
0
) +
2 次の項
1
2!
f
(2)
(x
0
)(x x
0
)
2
+
3 次の項
1
3!
f
(
3
)
(x
0
)(x x
0
)
3
+ · · ·
2! = 2 · 1 = 2 なので、2 次の項の係数も階乗で書き直している。
0 次の項と 1 次の項についても、0! = 11! = 1 を使って書き換えれば、次のような規則的な式に
なっていることがわかる。
f (x)
0 次の項
1
0!
f
(0)
(x
0
)(x x
0
)
0
+
1 次の項
1
1!
f
(1)
(x
0
)(x x
0
)
1
+
2 次の項
1
2!
f
(2)
(x
0
)(x x
0
)
2
+
3 次の項
1
3!
f
(3)
(x
0
)(x x
0
)
3
+ · · ·
これで、n 次の項まで加えていった一般形が想像つくようになったのではないだろうか。
40
CHAPTER 1.
微分と積分
無限に項を加えた近似式:テイラー展開
同じような考え方で、n 次の項まで加えた近似式を作ることができる。
f (x)
n
X
n=0
f
(
n
)
(x
0
)
n!
(x x
0
)
n
n とした場合のこの近似式には、テイラー展開という名前がつけられている。
テイラー展開
関数 f (x) x = x
0
で何回でも微分可能であるとき、関数 f (x) x
0
の付近で
f (x) =
X
n=0
f
(n)
(x
0
)
n!
(x x
0
)
n
と表せるなら、この式を関数 f (x) x = x
0
周りにおける テイラー展開 という。
特に、x
0
= 0 の場合のテイラー展開には、マクローリン展開という別な名前がつけられている。
マクローリン展開
関数 f (x) x = 0 で何回でも微分可能であるとき、関数 f (x) 0 の付近で
f (x) =
X
n=0
f
(n)
(0)
n!
x
n
と表せるなら、この式を関数 f (x) マクローリン展開 という。
1.3.2 存在定理としてのテイラーの定理
先ほどは、テイラー展開の式を手探りで導いたが、この式に数学的な証明を与える場合、その源
流(もととなる理論や定理)はどこにあるのだろうか。
まず、テイラー展開の原理となるテイラーの定理を見ておこう。
1.3.
存在定理とテイラー展開 41
先ほど示したテイラー展開の式の右辺は、必ずしも左辺の関数 f (x) に一致するとは限らないこと
を述べておく必要がある。
実際、テイラーの定理では、右辺にさらに余分な項(剰余項)が現れた形になっている。
テイラーの定理
関数 f (x) a x b の区間で何回でも微分可能であるとき、
f (b) =
X
n=0
f
(n)
(a)
n!
(b a)
n
+
f
(n+1)
(c)
(n + 1)!
(b a)
n+1
となる c a b の間に存在する。
このとき、最後の項を 剰余項 と呼び、次のように表す。
R
n
=
f
(n+1)
(c)
(n + 1)!
(b a)
n+1
この定理の式において、a b は最初に与えられた数なので最後の(剰余項以外は計算でき
ることになる。
ところが、最後の項に現れる c は、a b の間に「存在する」としか述べられておらず、実際の値
はわからない。
このような、存在だけを保証する定理は存在定理と呼ばれる。
この未知の値 c を含む剰余項を消すことができれば、実際に計算可能なテイラー展開の式が得ら
れることになる。
テイラー展開可能
テイラーの定理において剰余項が項を増やせば増やすほど小さくなるすなわ
lim
n→∞
R
n
= 0
が成り立つとき、関数 f (x) テイラー展開可能 であるという。
42
CHAPTER 1.
微分と積分
項の数を増やせば増やすほど剰余項が小さくなるということは、項の数を増やすほど再現の精度
が上がるということである。
剰余項とはいわば、近似式と実際の関数との誤差を表しているといえる。
* * *
テイラーの定理は一種の存在定理であり、この定理を証明するには、さらにいくつかの存在定理
の力を借りる必要がある。
微分に関する存在定理をいくつか辿った上で最終的にテイラーの定理を証明することを目指そう。
1.3.3 ロルの定理
ロルの定理
関数 f (x) が閉区間 [a, b] で連続であり、開区間 (a, b) で微分可能であるとき、
f (a) = f (b) = f
(c) = 0 (a < c < b)
となる c が少なくとも 1 つ存在する。
1.3.4 平均値の定理
1.3.5 テイラーの定理の証明
1.4 1 変数関数の積分
積分とは、「部分を積み重ねる」演算である。
微小部分を調べる微分と、微小部分を積み重ねる積分は、互いに逆の操作になっている。
1.4.1 区分求積法:面積の再定義
長方形の面積は、なぜ「縦 × 横」で求められるのだろうか?
そこには、長方形の横幅分の長さを持つ線分を、長方形の高さに達するまで積み重ねるという発
想がある。
面積の計算を「線を積み重ねる」という発想で捉えると、あらゆる形状の面積を考えることがで
きる。
1.4. 1
変数関数の積分 43
長方形では、積み重ねる線の長さは一定だが、他の形状では、積み重ねる線の長さが変化する。
積み重ねるべき線の長さを、関数で表すことができたら…
* * *
関数 y = f (x) が与えられたとき、高 f (x) の線分を a から b までの区間で積み重ねることで、x
軸とグラフに挟まれた部分の面積を求めることを考える。
a b
x
y
O
y = f (x)
この考え方は、面積を求めたい部分を長方形に分割し、長方形の幅を限りなく 0 に近づけるとい
う操作で表現できる。
a = x
1
x
2
x
3
x
4
x
5
x
b
x
y
O
a = x
1
x
3
x
6
x
9
x
12
x
b
x
y
O
x
a x b の区間を n 等分して、x
1
, x
2
, . . . , x
n
とする。
分割された各長方形は幅が x 高さが f (x) であるので、各長方形の面積は次のように表せる
S = f (x) · x
どんどん x を小さくしていくと、細かい長方形分割で、面積を求めたい図形を近似できる。
44
CHAPTER 1.
微分と積分
a = x
1
x
10
x
20
x
30
b
x
y
O
y = f (x)
つまり、求めたい面積は、分割した長方形の面積をすべて足し合わせることで近似できる。
S
n
X
i=1
f (x
i
) · x
x 0 の果てでは、幅を持たなくなった長方形は線分とみなせるので、もはや近似ですらなく
るだろう。
S = lim
x0
n
X
i=1
f (x
i
) · x
このような考え方は、区分求積法と呼ばれる。
1.4.2 定積分:面積を求める積分
ここで、区間 a x b における関数 y = f (x) x 軸の間の面積 S を求める式を、次のように表
記する。
S =
Z
b
a
f (x) dx
P
は離散的な和を表す記号であり、例えば
n
X
i=0
であれば、i 1 ずつ増やして n に達するまで足し
合わせることを意味する。
一方、ここで新たに導入した
R
は連続的な和を表す記号であり、微小変化を繰り返しながら足し
合わせることを意味する。
1.4. 1
変数関数の積分 45
P
は間隔を取って足し合わせるのに対し、
R
は間隔を限りなく小さくして足し合わせる。
足し合わせる間隔を限りなく小さくするという操作は、極限を取る操作に相当するので、
P
の極
限を取ったもの lim
X
をまとめて
R
という記号で表記したと捉えることができる。
さらに、 lim
x0
とした果ての x は、微小変化を意味する dx と書き換えられている。
定積分
a x b の区間内における関数 f (x) のグラフと x 軸の間の領域の符号付き面積を
求める演算を定積分と定義し、次のように表記する。
Z
b
a
f (x)dx
このとき、 f (x) を被積分関数と呼ぶ。
f (x) の値が負になる区間では、定積分の値も負になるため、定積分は符号付き面積を表す。
a
1
b
1
a
2
b
2
x
1.4.3 微小範囲の定積分から微分へ
定積分
Z
b
a
f (x)dx は、積分区間の取り方(a b の値)を変えると、当然異なる計算結果になる。
ここで、下端 a は固定し、上端 b を変化させて積分区間を広げていくことを考えよう。
上端が変化することを強調するため、上端は x と表記することにする。
このとき、定積分
Z
x
a
f (t)dt は、上端 x の関数として捉えられる。
46
CHAPTER 1.
微分と積分
S (x) =
Z
x
a
f (t)dt
t
R
の中で使っている変数 t は、積分区間の下端から上端まで動く変数であり、どんな文字を
使ってもよい。t が下端 a から上端 x まで動くなら違和感なく聞こえるが、x が下 a から
上端 x まで動く」というのはややこしいので、上端 x と区別するために t を使うことにした。
Z
u
a
f (t)dt
a x x + x
f (x)
f (x + x)
x
y
x
O
y = f (x)
x x だけ増加させたときに増える面積は、
S (x + x) S (x) =
Z
x+∆x
x
f ( t)dt
となるが、ここでさらに x を小さくしていくと…
増えた領域は、幅 dx、高さ f (x) の長方形とみなせるので、その面積は f (x)dx となる。
Z
x
a
f ( t)dt
a x x + dx
f (x) f (x + dx)
x
y
O
y = f (x)
よって、x 0 としたときには、
1.4. 1
変数関数の積分 47
S (x + dx) S (x ) = f (x)du
という式が成り立ち、これは実は見慣れた微分の関係式と同じ形をしている。
S (x + dx) =
元の関数
S (x)
+
導関数
f (x)
du
この式は、定積分したもの F(x) x で微分すると、積分前の関 f (x) に戻るということを示して
いる。
このような「積分したものを微分すると、元の関数に戻る」という事実は、微積分学の基本定理
として知られている。
微積分学の基本定理 積分の逆の演算は微分である。
1.4.4 不定積分:原始関数を求める積分
定積分の定義は面積から始まったが、定積分という操作で「微分したら元の関数に戻る」ような
関数を作ることもできた。
ここで、「微分したら元の関数に戻る」関数を次のように定義する。
原始関数
微分することで元の関数 f (x) が得られる関数を、f (x) 原始関数 と呼びF(x)
表す。
f (x) =
d
dx
F(x)
「微分したら元の関数に戻る」関数の 1 つが、前節で調べた S (x) =
Z
x
a
f (t)dt であったが、実はこ
のような関数は他にも存在する。
例えば、定数を微分すると 0 になるため、S (x) に任意の定数 C を加えた関数 S (x) + C を作っ
も、その微分結果は変わらず元の関数になる。
このことは、「原始関数には定数 C 分の不定性がある」などと表現されることがある。
48
CHAPTER 1.
微分と積分
「微分したら元の関数に戻る」関数を求める演算、すなわち「微分の逆演算」として捉えた積分
を新たに定義してみよう。
不定積分
関数 f (x) から原始関数 F(x) を求める演算を、 f (x) 不定積分 と呼び、次のよう
に表す。
Z
f (x)dx = F(x) + C
ここで、C 積分定数 と呼ばれる任意の定数である。
1.4.5 原始関数による定積分の表現
少し前に、定積分
Z
x
a
f (t)dt を上端 x の関 S (x) とみて、x を微小変化させることで、S (u) f (u)
の原始関数である(S (u) u で微分したら f (u) になる)ことを確かめた。
REVIEW
区間 x での面積の増分を考え、
S (x + x) S (x) =
Z
x+∆x
x
f (t)dt
x 0 とすれば、次のような微分の関係式が得られる。
S (x + dx) =
元の関数
S (x) +
導関数
f (x) dx
さらに前節では「微分したら元に戻る」原始関数 1 つだけではなく、任意の定数 C を用いた
F(x) + C も、 f (x) の原始関数であることを述べた。
そこで、 f (x) の任意の原始関数を F(x) とおくことにする。
原始関数は任意の定数 C 分だけ異なるので、f (x) の原始関数の 1 つである S (x) は、f (x) の他の原
始関数 F(x) C 分ずらしたものになるはずである。
S (x) = F(x) + C
1.4. 1
変数関数の積分 49
ここでS (x) =
Z
x
a
f (t)dt に、x = a を代入すると、下端と上端が一致する領域の面積(定積分
明らかに 0 なので、
S (a) =
Z
a
a
f (t)dt = 0
なんとここから、C を求めることができる。
S (a) = F(a) + C = 0 より、
C = F(a)
この C を用いて、S (x) を次のように表現できる。
S (x) = F(x) F(a)
x = b を代入することで、積分区間の上端を b に戻した定積分を考えると、
S (b) = F(b) F(a)
S (b) =
Z
b
a
f (x)dx
という、S (b) について 2 通りの表現が得られる。
t
上端を表 x という変数が現れなくなったので
R
の中で使っていた変数 t しれっと x
戻している。
R
の中の x は「下端 a から上端 b まで動く」という意味しか持っていないので、
何の文字を使っても意味は変わらない。
得られた 2 通りの表現式を組み合わせることで、次のような関係が成り立つ。
Z
b
a
f (x)dx = F(b) F(a)
原始関数による定積分の表現
50
CHAPTER 1.
微分と積分
関数 f (x) の原始関数が F(x ) であれば、定積分は次のように計算できる。
Z
b
a
f (x)dx = F(b) F(a)
ここで現れる F(b) F(a) という量は、次の記号で表される。
h
F(x)
i
b
a
= F(b) F(a)
1.4.6 定積分の性質
面積としての理解だけではうまく想像できない性質も、原始関数との関係を使うことで数式で確
かめられるようになる。
積分区間の結合
2 つの定積分があり、それらの積分区間が連続していれば、1 の定積分としてまとめて計算で
きる。
a b c
x
y
O
y = f (x)
積分区間が連続する定積分の和
Z
b
a
f (x)dx +
Z
c
b
f (x)dx =
Z
c
a
f (x)dx
1.4. 1
変数関数の積分 51
面積として考えれば明らかな性質だが、原始関数を使って証明することもできる。
f (x) の原始関数を F(x ) とすると、
Z
b
a
f (x)dx +
Z
c
b
f (x)dx = F(b) F(a) + F(c) F(b)
= F(c) F(a)
=
Z
c
a
f (x)dx
として、式が成立することがわかる。
積分区間の反転
積分区間の上限と下限を入れ替わると、符号が変わる。
定積分の積分区間の反転
Z
b
a
f (x)dx =
Z
a
b
f (x)dx
これは、積分区間が連続する定積分の和の性質における、c = a の場合の式である。
Z
b
a
f (x)dx +
Z
a
b
f (x)dx =
Z
a
a
f (x)dx
= 0
Z
b
a
f (x)dx =
Z
a
b
f (x)dx
定積分の線形性
微分や
P
記号などと同様に、定積分も線形性を持つ。
52
CHAPTER 1.
微分と積分
定積分の線形性
Z
b
a
{
α f (x) + βg(x)
}
dx = α
Z
b
a
f (x)dx + β
Z
b
a
g(x )dx
この性質は、微分の線形性から導かれる。
f (x) の原始関数を F(x )g(x) の原始関数を G(x) とすると、微分の線形性より、
d
dx
{
αF(x) + βG(x)
}
= α
d
dx
F(x) + β
d
dx
G(x)
= α f (x) + βg(x )
となるから、α f (x) + βg(x) の原始関数は αF(x) + βG(x) である。
よって、定積分を原始関数を使って書き表すと、
Z
b
a
{
α f (x) + βg(x)
}
dx = αF(b) αF(a) + βG(b) βG(a)
= α
{
F(b) F(a)
}
+ β
{
G(b) G(a)
}
= α
Z
b
a
f (x)dx + β
Z
b
a
g(x)dx
となり、原始関数を使うことで、微分の線形性から定積分の線形性につながることがわかる。
1.4.7 不定積分の性質
原始関数は、微分によって元の関数に戻る関数だった。
そして、元の関数から原始関数を求める演算が不定積分である。
F(x)
f (x)
d
dx
R
原始関数という言葉にとらわれないように表現すると、結局は次のような関係が成り立っている。
1.4. 1
変数関数の積分 53
f (x)
f
(x)
d
dx
R
不定積分と微分は逆の演算
関数を微分すると導関数になり、導関数を不定積分すると元の関数に戻る。
このような関係によって、微分が持つ性質から、不定積分の性質を導くことができる。
不定積分の線形性
微分の線形性から、不定積分の線形性も成り立つ。
REVIEW
微分の線形性
(αF(x) + βG(x))
= αF
(x) + βG
(x)
微分の線形性の式の両辺を不定積分すると、左辺は微分する前の関数 αF(x) + βG(x) に戻るので、
Z
(αF(x) + βG(x))
dx =
Z
αF
(x) + βG
(x)
dx
αF(x) + βG(x) =
Z
αF
(x) + βG
(x)
dx
ここで、導関数を不定積分すると元の関数に戻ることから、
F(x) =
Z
F
(x)dx
G(x) =
Z
G
(x)dx
と置き換えることができる。
これらを使って左辺を書き換えると、
54
CHAPTER 1.
微分と積分
α
Z
F
(x)dx + β
Z
G
(x)dx =
Z
αF
(x) + βG
(x)
dx
F(x) f (x) の原始関数、G(x) g(x) の原始関数であるとすると、微分したらそれぞれ元に戻る
ので、次のように書き表せる。
α
Z
f (x)dx + β
Z
g(x)dx =
Z
{
α f (x) + βg(x)
}
dx
不定積分の線形性
Z
{
α f (x) + βg(x)
}
dx = α
Z
f (x)dx + β
Z
g(x )dx