Chapter 1
絶対値
1.1 数直線上の原点からの距離
実数 a の絶対値は、数直線上の原点 0 から a までの距離として定義される。
3 3 を例に考えると、どちらも絶対値は 3 となる。
R
3 30
3 3
3 の絶対値が 3 であるように、負の数の絶対値は元の数から符号を取ったもの(元の数を 1
したもの)となる。
まとめると、
正の数の絶対値は元の数そのまま(0 の絶対値もそのまま 0
負の数の絶対値は元の数の 1
というように、絶対値は場合分けして定義される。
絶対値
1
2
CHAPTER 1.
絶対値
実数 a について、a 絶対値 を次のように定義する。
|a| =
a (a 0)
a (a < 0)
1.2 絶対値の性質
1.2.1 絶対値は 0 以上の数
負の数の場合は、符号を取って正の数にしたものを絶対値とすることから、絶対値が負の数にな
ることはない。
絶対値は常に非負
実数 a の絶対値 |a| は、常に 0 以上の数となる。
|a| 0
等号が成立するのは、a = 0 の場合である。
1.2.2 中身の符号によらず絶対値は同じ
3 3 も、絶対値はともに 3 だった。つまり、
|3| = | 3| = 3
このことを一般化したのが、次の性質である。
中身の符号を変えても絶対値は不変
1.2.
絶対値の性質 3
実数 a の絶対値について、次が成り立つ。
| a| = |a|
1.2.3 積の絶対値は絶対値の積
絶対値の計算と、積の計算は、どちらを先に行っても結果が同じになる。
絶対値の積の性質
実数 a b について、次の式が成り立つ。
|ab| = |a||b|
a b がともに正の数なら、
a b は正の数なので、|a| = a|b| = b
ab も正の数なので、|ab| = ab
となり、|ab| = |a||b| が成り立つことがわかる。
では、片方が負の数の場合はどうだろうか。
a b のどちらかにマイナスの符号をつけてみると、
| ab| = | a||b|
| ab| = |a|| b|
のどちらかとなるが、前の節で解説した | X| = |X| の関係から、これらはどちらも |ab| = |a||b|
帰着する。
a b の両方が負の数の場合は、
|ab| = | a|| b|
となるが、これも | X| = |X| の関係を使えば、やはり |ab| = |a||b| に帰着する。
4
CHAPTER 1.
絶対値
1.3 数直線上の 2 点間の距離
Under construction...
1.4 max 関数による表現
実数 a の絶対値は、a a のうち大きい方を選ぶ」という考え方でも表現できる。
たとえば、3 3 の絶対値はともに 3 だが、これは 3 3 のうち大きい方(正の数の方)を絶
対値として採用した、という見方もできる。
max 関数による絶対値の表現
実数 a について、a 絶対値 を次のように定義することもできる。
|a| = max{a, a}
ここで登場した max は、「複数の数の中から最大のものを選ぶ」という操作を表している。
1.5 三角不等式
2 つの実数 a b の「絶対値の和」と「和の絶対値」の間には、次のような大小関係がある。
絶対値に関する三角不等式
任意の実数 a b について、次の不等式が成り立つ。
|a + b| |a| + |b|
t
この形の不等式は実は今後登場するベクトルの長さ(ノルム)や、素数の絶対値に対して
も成り立つ。三角不等式と呼ばれる所以は、ベクトルに関する三角不等式で明らかになる。
1.5.
三角不等式 5
絶対値の定義から、この不等式の証明を考えてみよう。
a の絶対値 |a| は、a から符号を取り払ったものであるから、逆に絶対 |a| + の符号をつけ
ることで、元の数 a に戻すことができる。
a が負の数だったなら−|a| とすれば a に戻る。正の数だったなら、|a| がそのまま a に一致する。
R
−|a| |a|0
|a| |a|
a は原点からの距離が |a| の場所にあり、a −|a| |a| のどちらかに一致する。
どちらに一致するかはわからないので、次のような不等式で表しておく。
−|a| a |a|
b についても、同じように考えることができる。
−|b| b |b|
これらの不等式を使って、さらに式変形を行うことで、三角不等式を導くことができる。
Proof: 絶対値に関する三角不等式
絶対値の定義から、次の不等式が成り立つ。
−|a| a |a|
−|b| b |b|
両辺を足し合わせて、次の不等式を得る。
(|a| + |b|) a + b |a| + |b|
(|a| + |b|) a + b の両辺を 1 倍することで、次の関係も得られる。(不等式の両辺 1
すると、不等号の向きが逆転することに注意)
|a| + |b| (a + b)
6
CHAPTER 1.
絶対値
ここまでで得られた、a + b についての不等式をまとめると、次のようになる。
|a| + |b| a + b
|a| + |b| (a + b)
一方、a + b の絶対値は、定義より次のように表せる。
|a + b| = max{a + b, (a + b)}
a + b (a + b) のうち大きい方が |a + b| となるが、a + b (a + b) はどちらも |a| + |b|
下となることがすでに示されているので、
|a + b| |a| + |b|
となり、定理は示された。